MILLENNIUM XML WWWページコンテスト講評

2000年11月8日

XML WWWページコンテスト選考委員会


全体講評

講評者: 鈴木 徹

今回は全体的なレベルはあがっているものの、残念ながら技術的に抜きんで ている、新規性が素晴らしくあって思わずうなってしまうような作品は無かっ たように感じてしまった。

第2回目のコンテンストということから、過大なレベルアップの期待感を抱き すぎていたきらいがあるのかもしれない。

また、応募者はみな第1回目のコンテスト応募作品をみたり、XMLに関する技 術解説書等を熟読しているかと思うが、作品の題材について第1回目より幅が せまくなっているように感じた。 この点については、コンテストの応募要項 によることもある可能性があり、今後審査基準、応募方法等について考え、よ り広い題材、実装方法の作品が応募しやすい環境を作っていければと思う。

応募者の方には、題材にするものによってXMLの潜在能力をより引き出せる可 能性があるということを忘れずに、題材、実装方法ともに固定観念にとらわれ ずにいつも自由な発想を保ち、新技術を使いこなしているんだという気概を持っ て、さらなる高みへと探求に勤しんでいただきたい。

講評者: 川俣 晶

前回に引き続き審査を行ったが、全般的な傾向として、良くも悪くもとんでも ない作品が減ったと感じる。技術力、表現力の平均水準は向上しているが、常識 的な範囲にとどまり、圧倒的に他を引き離すだけのものは無かった。

一方、総合力という点から見ると、技術、表現、実用性、規格への適合性、セ ンスなどの各方面において、すべてバランス良く優れる作品というのは見あたら なかった。複数の美点を備えているにも関わらず、充分な水準に達していない要 素も同時に持ち合わせている作品が見られ、大変に残念であった。第1席には、 どの角度から見ても優れていて、これからXMLを志す者達へのお手本として申し 分のない作品を選びたいと考えたので、バランスの良くない作品は美点が複数あ っても第1席として推薦することはできなかった。また、第1回の結果をふまえた 第2回のコンテストである以上、第1回の第1席作品を超える水準が要求されてい るという事実もある。その意味でも、第1回の第1席作品の水準をバランス良く凌 駕するものはなく、これも第1席無しという判断の理由の一つとなった。

前回との対比でいうと、著しくユニークな作品が減少したという傾向が感じら れた。XMLとXSLTとスクリプト言語を用いたページ作成の方法論は確立されつつ あり、これに沿って作成すれば、XMLによるWebページを構築することは難しくな い。しかし、この方法論が正しいかどうかはまだ結論が出ていない。何か他の選 択の模索があっても良かったのではないかと考えられる。

もう一つ、前回に引き続き残念であるのは、応募作品が単一のコンテンツとし て閉じてしまっている作品がかなり見られることだ。XMLは、ただ単に手軽にデ ータを記述することができる言語ではない。スキーマの標準化により、幅広くネ ットワーク上でデータを共有して活用することも可能である。そのような使い方 に対する視点が、もっと幅広く欲しいと感じられた。データ共有が広がって行か ず、ただ単に一つのコンテンツの中でXML文書が使われ、消えていくだけなら、 本当の意味でXMLを活用しているとは言い難い。

だいぶ辛口の意見が多くなってしまったが、作品の完成度ではなく、作品が備 える「可能性の萌芽」に着目すれば、まだ発芽していない可能性がいろいろある と感じられた。後1年ぐらいじっくりと熟成させれば、素晴らしい作品となるだ ろうと思わせるものもある。今回の結果は、あくまで、2000年10月現在の断面を 切り取った評価であり、作品はまだまだ未来へ続くものであると思う。1年後に 再評価すれば、評価が逆転するものも多いだろう。選外でも落胆すべきではない し、入選したからといって評価は永遠に続くものではない。

講評者: 吉田正人

ずば抜けて優れた作品はなく,技術的にも似たような傾向の作品が 多かった。

その中でも SVG による表現がすばらしかった「World Cup 2002」 と,実用性の高い「アンケート収集/集計ツール」の評価は高かっ た。

個人的には,「Slides for Presentation Markup Language」,お よび「Wendows シリーズ」は実用性にはやや疑問のあるものの,興 味深い試みだと感じた。

今回応募された作品にはサーバサイドで動作するものが少なかった。 クライアントサイドでXML を使おうとするとどうしても特定のブラ ウザに依存しがちなので,もっとサーバサイドの作品が増えること を期待している。

講評者: 家永慎太郎

XML関連の情報が、多くなってきたことも関係しているのか技術面からみて 全体的に一定のレベルはクリアーしている。なかなか、XMLの実装形態に 定石は示せないがそれなりのセオリーの確立がされてきている実感ができた。 まさに、XML幕開けと言ったところか。しかしながら、どの作品も作りこみ のボリューム、テクニックを除けば、「常識の範囲を逸脱せず行儀が良い」 傾向にありXMLが教科書的な利用の範囲にとどまっている感じを受けた。 それゆえ、現実的な実用性・将来性やコンテンツとしての完成度はあっても、 XMLの利用モデルから見た独自性・新規性が感じられなかった。 この点は、今回一席を出せなかった大きなポイントです。

一口に、独自性・新規性が表現できる作品を作ることは、私を含め難しいと改めて 感じたが、今後、XMLのまだ見ぬ可能性が今回のようなコンテストの中から現れ XMLの利用モデルにネクストウェーブを呼ぶ作品が出てくることを願います。

講評者: 村田 真

ゼロから始めた第一回と違い、今回の応募者には数多くのお手本があった。そ の結果、最低レベルは大きく向上した。いっぽう,同じような作品が増えてし まったという感じもある。一席を出せなかったのは,選考委員側としても残念 であるが,去年の一席を越えた作品はなかったと判断する。

二席に入選した「World Cup 2002」と「アンケート収集/集計ツール」は, どちらも数多くの美点を備えている。World Cupは,SVGの利点だけではなく, XML の利点(去年の一席作品で示された以外の利点)が出ていれば一席だった。 アンケートは,説明資料が充実していれば,あるいはWWW ブラウザ側での動作 に工夫(たとえばSVGを利用した集計表示)があれば,私は一席に押しただろ う。

「VMLによる図面とデータの連携に関する一考察」では,AのXML文書は素晴ら しいが、Bのkoujou.xmlは意味がない。「Wendowsシリーズ」は,WWWサーバ側のCGI とクライアント側のHTML Componentを使った構成が面白い。審査員の評価も分 かれた問題作である。RELAXの対話的な表示を行うviewRELAXは,hedgeRuleや attPoolを展開するコードが私には特に参考になった。「練習記録ビューア」 から分かる真面目な練習は,私にはとっても羨ましい。

応募作品のMIMEヘッダを調べてみたが,charsetパラメタを正しく指定した ページはきわめて少ない。「charsetパラメタの勧め」, 「Asahi ネットだからできるリソースの多次元的表現について」などを参考にして ほしい。

いろいろ,批判的なことを書いたが、応募作品のレベルは、世界的にみてトッ プクラスだと思う。正直に言うと、私には到底作れそうもないような凄いペー ジばかりである。一度は、私も応募する側に回ってみたいと思う。入選はでき そうもないが,このコンテストを目標にしてXML WWWページを作るという楽し みをぜひ味わってみたいと思う。


二席作品講評

作品番号4: World Cup 2002

講評者: 鈴木 徹

本作品は新規性はあまりなくほとんどがSVGで構成されているのだが、とに かく今回のコンテスト作品中、webコンテンツとしての完成度が抜きんでてお り、見るものをわくわくさせてくれるものを持っている点がとても素晴らしい。

XMLを知らない人が本作品を見、XMLに興味を持つきっかけを作ってくれるので はないかという大きな期待感を持たせてくれた点を評価し、2席への票を投じ た。

本作品はひとつのサイトを構築したと言える程、コンテンツとしての機能要素 をきちんと持っており、しっかりとした各ページの作り込みがなされている点 から、制作者のいきごみが感じられ実に気持ちが良い。

機能概要の説明に手抜きがある応募作品が多かったなか、本作品は全ページの ファイル説明、URLの記述が整理され、きちんとしたものがあった点も、全応 募作品の中で相対的に評価あがった理由でもある。 今回選にもれてしまった 作品、技術的にはすぐれていても、評価が下がってしまった作品の応募者には 気をつけてもらいたい。

作品番号18: アンケート収集/集計ツールの講評

講評者: 川俣 晶

すぐにでも利用したくなるような実用性の高い作品である。

しかも、アンケートの内容が高度にカスタマイズでき、ただ単に選択をカウン トするだけでなく、複数選択や自由文の入力など、きめ細かい処理に対応できる。 オンラインソフトとして公開すれば、すぐに多くのユーザーが付く可能性も高い と思われる。

それと同時に、単なる項目の羅列ではない、高度なアンケート項目の記述のた めに、XMLが効果的に使用されている点からも、このコンテストの趣旨に合って いる。

しかし、審査会議では以下の3点に関して、疑念が提示された。

第1に、クライアント側でもXML処理を必要とする点が議論された。この内容で あれば、クライアント側は単なるHTMLでも十分ではないか、という意見が出たが、 XMLだからといって悪いとも言えないということで、この点に関しては減点対象 としないと結論とした。

第2に、作品内容を解説する文書に情報が不十分である点が問題となった。こ れは、作品内容をより迅速かつ的確に審査員やギャラリーに伝達するために必要 不可欠なものであり、他の応募作品に比べて見劣りするものであった。そのため、 これは減点対象とした。

第3に、これと関連して、インストール手順が分かりにくいという意見が出た。 審査員の一人(川俣)は、実際にFreeBSDマシンにサーバ側のコンテンツをインス トールして動作テストを試みたが、Perlに関する知識が十分ではないために、動 作させることができなかった。具体的に、どのようなハードやソフトが動作要件 であり、Perl処理系はバージョンいくつが必要であり、追加モジュールとして何 が必要なのかが明示されていれば、実際にサーバ側の動作を審査員側で検証する ことが可能であったと考えられる。コンテストは終わったが、この作品が利用さ れるのはこれからである。コンテストとは無関係であるが、インストール方法な どの文書を整備してから作品を公開し、幅広い利用者から利用されることは審査 員の期待するところでもある。


三席作品講評

作品番号2: VML による図面とデータの連携に関する一考察

講評者: 吉田正人

XML 化された不動産登記情報を VML を使った公図データを使って 表示するシステムと, XML 化された機械器機を VML を使った配置 図に表示するシステムである。

技術的には特に目新しいものではないが,設計がしっかりしていて 完成度がかなり高かった点が評価された。特に登記簿の XML の設 計はきちんとしている点は評価された。

ただし図面情報等が XSL ファイルに埋め込みで再利用性が低い 点,および XSL ファイルを読みこむだけの無意味な XML ファイル の存在などが問題点としてあげられた。

作品番号10: Slides for Presentation Markup Language

講評者: 川俣 晶

XMLを、特定のコンテンツ内で閉じたデータの記述として使用する作品が多い 中で、きちんと一つの言語を定義し、他の利用者が自分のデータを作成して利用 可能にしているという点が評価された。

自分さえ使えれば良い、という考え方はXML的ではない。やはり、XML文書を書 くなら言語として標準化して、幅広く様々な利用者が利用可能にする作業に取り 組むことが、XML的であると言える。

その点で、ただ単に他人がデータを書くこともできますというレベルではなく、 言語を定義して、他人がデータを書くことを明確に支援する内容を持っているこ とは、他の作品にはない高い価値があると考える。

しかしながら、XMLでプレゼンテーションを書いてHTMLに変換、という着眼点 は、審査会議において「既によくあることで新規性がない」という意見が出され、 高い評価を受けなかった。また技術面でも、プレゼンテーション画面での画面切 り替えやメニュー表示などは、XMLならではの技術として評価する対象にはなら ないとされた。

とはいえ、しっかりと他者も利用できるように言語を定義したということは、 その1点においては誰もが見習うべきXML的美点であるため、佳作として選出し、 その価値を示すものとした。

作品番号12: Wendowsシリーズ

講評者: 家永慎太郎

クライアント・サーバ部で構成されたWEBチャットシステムである。 XML・XSLを効果的に利用することでシステムリソースの 効率的利用を実現している。

サーバ部は、簡単な実装で構成し、チャットデータのみを管理している。 クライアントは、XSLとHTMLコンポーネントを利用し サーバ側から送られたデータに装飾を実行している。

スタイルシートを動的に変化させるなど、XMLの可能性を視覚的部位 にも適用してほしかった。また、クライアント側のプラットフォームを 限定しない仕様にできれば、実用性が更に向上する。説明資料も、「解説」 と「技術仕様」と「思い」を明確に分離して用意した方が良い。 XML・XSLを比較的簡単な実装で、その利点を活用している点と 実用面での発展可能性が十分に認められる点が評価につながった作品だ。

作品番号13: 練習記録ビューア

講評者: 村田 真

バンドや合唱団などの練習で出てきた注意事項を,XMLによって管理するシス テムである。注意事項をXML文書としてまとめて表現し,XSLTによってHTML化 する。変換のとき,注意事項の絞込みが対話的に(WWWブラウザ上で)可能に なっている。

XML技術としてとくに新規性があるという訳ではないが、現実の音楽 練習に使えるシステムであるという点を評価した。歌詞に関する注意事項をき ちんと整理するのは本当に大変である。なお,回覧のためのメールも,XMLか ら生成できないかというコメントがあった。

作品番号14: 器械体操競技RESULT

講評者: 村田 真

体操競技の点数を計算するソフト(GA)の出力を,対話的に表示する。とくに, 並べ替えの部分(たとえば総計順で並べる,鞍馬の得点順で並べるなど)を XSLTによって行う。それ以外の部分は,あらかじめXMLファイルを生成してお くことで対応している。

XML技術としてとくに新規性があるという訳ではないが、体操という用途で実 用になるソフトと評価する。XMLに詳しい体操経験者からも,現在の実用シス テムに対して明らかに優れていると評価していた。ただし,実際の競技では, 個々の競技の結果が刻々と判明するので,それに動的に追随できるようにして ほしいという意見もあった。